THIRTY THREE RECORD

創作への雑考 pt.30

Date : 2017.02.13 / Author:吉川 工

コンピューターグラフィックス、人工知能等、
様々なテクノロジーが生み出され、
それらはアートの世界に多大なる影響を及ぼしています。
人類で一番最初に生まれたアートから現代に至るまで、
数多くの手法が生み出されてきました。
この先もテクノロジーは進化を続け、
研究と発見は僕達に新たな世界を見せてくれるでしょう。
しかし、どんなに技術や情報が増えても、
アートの根本理念が変わる事はありません。
アートとは自分の中に生じたものを
この世界に生み出す行為であり、その行為の洗練です。
そこに他者は介在させません。
この世界に生み出された命、
つまり、生み出した作品をどうするかは
その生みの親であるアーティスト次第です。
僕は、この世に生み出した命を
地下室へ幽閉するような事はしたくありません。
命は環境の中で育まれるものだと思います。
地下室の中で夢幻の宇宙を生み出す子供もいるかも知れませんが、
僕は豊かな情報と環境に触れさせたいです。

命は環境の中で育まれる。
この考えに則って話を進めていきます。
作品という命は有機物、無機物に関わらず成長します。
生命と非生命の境界はそこにはありません。
更に、作品の命と創造主であるアーティストの命は直結しています。
作品はアーティストと共に成長し、その逆も然りです。
僕は命こそが全てだとは思いません。
命には輝く命と自ら輝きを殺してしまっている命があると思っています。
命を輝かせる為には、生きるという事が大前提ですが、
それは唯、生きていれば良いというものではありません。
人間には自覚という意識があります。
自覚によってこの世界を分別し、認識していきます。
自己というものを全体性の中で希釈させ、
霞ませるような生き方は命の輝度を曇らせます。
そのような命が唯生きている姿は、命の神秘でも何でもありません。
唯の怠惰です。
命の怠惰は自己正当化によっても生じます。
命を洗練させる為には、
ストレスのある環境の中で鍛えなければなりません。
アーティストの命が洗練される事で、
そのアーティストの生み出した作品は、倉庫の中に眠っていても、
存在をより強いものへと変えていきます。
それは自他共に認められる程の変化です。
作品とアーティストの命がつながっているという事は、
作品を環境の中にさらす事で、洗練されていく作品が
アーティストの命を洗練させるという事です。

そんな事を考えていたある日、僕はある事に気付きました。
自尊心の回復の為にされる創作は
アートと呼ぶにふさわしいものではないという事です。
アートとは洗練と混沌です。
光と影であり、否定と肯定であり、
生と死であり、有と無であります。
(この有と無は意識や意味の事です。)
僕は自身の存在を納得させるという、
自尊心の為に創作をしようとしていました。
そして何かを作り納得させていました。
そんな行為に命の輝きは生まれるでしょうか。
存在を納得させようとする事と、存在の探求は全く違います。
アートにおいて成される出来事は存在の探求なのです。
そこでは否定も肯定も同一です。
肯定する為でも、否定する為でもありません。

最後に、作品とアーティストの命はつながっていると言いましたが、
それと同じようにこの世の全ては、
量子でつながる一枚の布である事を言っておきます。
存在と現象(そこには思念も含まれます。)の、振動は共鳴し合います。
この共鳴は打ち消し合う事もありますが、増幅し合う事もあります。
作品を環境にさらすのは、アーティストと作品、
作品と第三者、そしてアーティストと第三者間での
振動の増幅をねらう為のものです。



                                                      

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