音楽駅での空理空論 #1
Date : 2021.01.05 / Author:鐘湖曜餅
スピーカーで鳴る音楽
ヘッドフォンで鳴る音楽
イヤホンで鳴る音楽
自分を含む、
自分以外の世界からの楽音が
自身の鼓膜に届くまでの距離の差は
自分を含む、
他者との距離の間にある空気と空間の量の違いであって
それらが意識や感情にもたらす作用や機能の差異は
世界との距離をどう感じたいのかによるものだ
また、そこにあってはじめて
自然な求めに合った距離感というものも辿れるというものだろう
演出と誘導を差し置いた本質的な意味では誰という個人においても
或るその愛聴盤を日暮れのチャイムで街に鳴らすことははばかれるが
そのサイレンで時刻を皆に知らせた童謡はイヤホンで自分だけの為に鳴りうる
ひとつの道具の道理としても
空気の中で聞く遠距離のスピーカーに音質が求められないように
空気のより側で聴く近距離のコーンには音質が求められうる
どこまでいっても音楽は
独りの自分が世界をどう感じるか
また、どう知るのかへの興味だと思う
そして音楽が広く狭く震えるその空気の層は
案外、地表付近にしか存在しない薄い層であることに違いない
すべての表現されたものは地上数百メートルにおよそ留まっているものだ
人による様々な意図や感情を伴った無数の音楽は
風や潮に乗せるともなく降ろすともなくすべて
そのままそこにあれば良いと思う
人による音楽の周りを、遠く歩くのも近く歩くのもまた人なのだ
それらの振動は今日も幾億とその時々の空気をまたぎ渡っている